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第二章 旅の始めの一日/一.渡り竜の年
「みつるぎ国にも竜はいるの?」
馬上で眠ってしまわないように、ゆめさきはおしゃべりを続けていた。馬上といっても、本物の馬ではない。ふぶきが核を入れ、自動歩行するよう命じた木馬だ。
手のひらに乗る大きさの精巧な木馬が、ふぶきの根ざしものの力を得れば、またたく間に等身大の馬の寸法にまで伸長し、歯車の噛み合う音を立てながら人を乗せて歩き出す。
奇跡のようなその光景を目撃し、きらぼしは目を輝かせ、もちづきも感嘆の息を洩らした。二人に誉められ、正直なふぶきはまんざらでもない様子で小さく笑った。
一行が城壁を越え、街道を北に向かって歩き始めてから三時間ほど経過している。東の空が白んできた。
もちづきは仮面を外さず、口数も多くない。ゆめさきの「竜はいるか」という問いにも一つうなずいただけで、背筋を伸ばして前ばかり見ている。
ゆめさきのおしゃべりに応じるのは、もっぱら、きらぼしだった。じっとしていれば、みつるぎ国の刀のように冷たく鋭い美形だが、きらぼしはにぎやかだ。笑ってばかりの表情は軽やかで、身分は高いくせに少しも気取ったところがない。
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