第一章 星空を翔ける者/一.おてんば姫

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第一章 星空を翔ける者/一.おてんば姫

 ゆめさき姫は窓枠に足を掛けて、飛んだ。  夜に溶ける暗色のマントをはためかせ、風を一つ蹴れば、初夏の星空がぐんと近付く。巡回する近衛兵に発見されないように、宮廷の中央に建つ父王の執政殿や城壁に配された八ヶ所の物見塔よりも、うんと高く飛び上がらなければならない。  ゆめさきの胸にしがみ付いた雄の仔竜、あらしが、もそもそと身をよじった。ゆめさきは、あらしのツヤツヤした鱗を撫でてやって、背負った荷物の肩紐をキュッと引き締めた。 「しっかりつかまってなさいよ、あらし。思いっ切り、かっ飛ばすから!」  あらしは、キュイ、と喉を鳴らして返事をした。  まもなく十二歳になろうとするあらしは、竜の年齢に直せばまだほんの幼児で、銀色の体は人間の赤ん坊のように小さい。一度の脱皮も遂げていないため、翼はお飾りで空を飛べないし、頼りない爪は小型犬のものと大差ない。  ゆめさきは振り返った。今しがた蹴り飛ばしてきた窓から、妹のきよみずが憂いを帯びた目で、ゆめさきが翔ける空を仰いでいる。     
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