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あらしは、ゆめさきが飛行眼鏡を装着したと見ると、まぶたの内側にある透明な皮膜を下ろした。皮膜は飛竜属に特有の器官で、風雨を防ぐ役割がある。
「わたしの目にも、その保護膜があればいいのに」
ゆめさきのないものねだりに、あらしは得意げな顔で、キュ、と鳴いた。飛行眼鏡は視界が狭まるし、枠の部分が額や頬に食い込んで痛いのだ。
空を仰いだゆめさきは、再び風を蹴った。水底を蹴って浮かび上がる感覚に似ている。水よりも風は軽い。蹴り出すコツさえつかめば、水中よりもずっと自由に、空中を滑っていける。
見下ろすと、城壁上の通路を巡回する兵士が豆粒よりも小さい。
宮廷も王都も円形だ。分厚い城壁にぐるりと囲まれた宮廷を中心に、放射線状に街路が伸び、同心円状に町が展開され、隈なく巡る水路が交通の利便を助けている。
町にぽつぽつと落ちた灯火は、深夜の今もにぎわう酒場と、迷える子羊にいつでも門戸を開く教会、そのほかは何だろう? 明日までに仕上げるべき品物のある職人の工房か、昼夜を忘れた学者たちの象牙の塔か。
「いろんな人が、たくさん住んでいる。だから、地上にある星も好きよ。空の星と同じくらい好き」
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