第二章 旅の始めの一日/一.渡り竜の年

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「みつるぎ国で目撃例がある竜は、あらしみたいな鳥類目じゃなくて、蛇類目だ。つまり、体が長いやつ。空も飛ぶと言われてるけど、海や湖に住んでるって話が多いかな」  竜は、大きく分けて四つの種目が報告されている。後肢で立ち上がる姿の鳥類目、長く柔軟な体を持つ蛇類目、四つ足で歩く象類目、海中に棲んでヒレを持つ鯨類目。このほかに人類型の二足歩行の竜もいると言われるが、確証は得られていない。  あらしは鳥類目の中でも飛竜属に分類される。今は卵から孵った姿を保った幼体だが、まもなく迎える最初の脱皮を経て広い翼を得れば、空を飛ぶことができるようになる。  本好きで物知りのふぶきが、ゆめさきときらぼしの間に割り込んで、百科事典でも読み上げるような説明を加えた。 「あらしは袋銀竜の仔です。袋銀竜は群れを成す竜で、十二年を一つの周期として世界じゅうを旅する、いわゆる渡り竜の一種として知られています」  ゆめさきは、もちろん、そんなことはとっくに理解している。もちづきも大きな反応を見せない。きらぼしだけは竜の生態に詳しくなかったと見えて、切れ長な黒い目に好奇心の色を輝かせた。 「袋銀竜ってのか? 袋があるからか?」 「ええ。袋銀竜の袋とは、雌のおなかにある、仔竜を保護するための皮膜のことです。あらしを見ればわかるとおり、袋銀竜の仔の最初の十二年は、空を飛ぶ翼を持ちません」     
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