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「ああ、それで、母親が子どもを袋に入れて運んでやるってことか」
「母親とも限らないようですけどね。母親の親や姉妹、あるいは同じ親を持つ姉も、飛べない仔竜の面倒を見るという報告があります」
あらしは、ゆめさきの鞍前に座っている。脱皮が近いせいで体がかゆいらしく、後肢を伸ばして首筋を掻くこともある。
犬のような格好で首を掻くあらしの姿には、ゆめさきには思い掛けないことだったが、もちづきが反応を見せた。ゆめさきの馬へと自身の馬を寄せ、仮面からのぞく口元を微笑ませて、あらしにそっと手を差し伸べる。
「かわいいものだな。動物の仔は皆、愛らしい」
あらしは、もちづきの手の匂いを嗅ぎ、手の主を大きな目で見つめ、指先を甘噛みした。雑食性の袋銀竜の歯はそれほど尖っていないし、力加減もわかっているから、あらしの甘噛みはくすぐったい。もちづきは小さな声を立てて笑った。
「もちづきは動物が好きなの?」
「さようですね。人間同士の関わり合いには、しばしば疲れ、すり減ってしまうこともあります。そのようなとき、私は、人間ではない動物に触れたくなります」
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