第二章 旅の始めの一日/一.渡り竜の年

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「気持ちは少しわかるわ。わたしは好き勝手にしているほうだけれど、それでも、心が疲れることもあるもの。政が不安な時期には、あらしがいてくれて心強かった」 「あさぎり国は政情の安定した国だと聞き及んでおりますし、私も実際に王都を拝見し、豊かで満ち足りていると感じましたが」 「人さらいと戦ったのに?」 「衛兵によるその対応が盤石でした。素晴らしゅうございます」 「そう。でもね、父上はだらしないところがあって、みんなに悲しい思いをさせたことがあるのよ。わたしはそうはなりたくない」  東の遠い山並から、夏の太陽が顔を出す。山の端には淡い霧が立ち込め、紅を溶かしたような光がにじみながら、朝を渡る風を暖めていく。  季節は初夏。青々とした森の木々が一年でいちばん元気な色で、日の光に輝いている。今日は暑くなるかもしれない。  一行は北へ北へと街道を進む。ゆめさきは、あらしとの出会いを、きらぼしともちづきに語った。 「十二年前、わたしが四歳だったころ、父上の行幸に初めて同行したの。行った先は、あさぎり国の北方一帯。いろんな町を巡ったわ。その中で、北の国境近くにある、あさぎり国の民とむらくも族が住む村のそばで、あらしを拾ったの」     
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