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「すみません。今日はちょっと……。用事があるので」
出任せに当たり障りなく誤魔化す。
「そう、残念。じゃあ、今度の土曜日は?」
「え?土曜日?」
会社が休みの日にわざわざ?
「あ、いや、その日もちょっと……」
佐原さんに同じ事言われたら嬉しいのに、田中さんに言われても心なんて動かない。
犬呼ばわりでも、まだ好きなんだと痛いほど自覚する。
「何?二人じゃ恥ずかしい?山口さん可愛いなぁ」
伸ばされてきた手に、はっと我に返る。
あ、撫でられる。
イヤっ。
目をぎゅっと瞑り、肩が強張る。
「ちょっと待った。田中、それセクハラ。山口が嫌がってんだろ。さっさと気付けアホ!」
田中さんの腕を掴み、既の所で止めてくれた。
「えっ、え?そうなの?だってお前には……」
私と佐原さんを見比べて「なんだ、そういう事」と彼が口の中で呟く。
「ごめん、山口さん。でも気が変わったらいつでも声掛けてね」
軽くウィンクして素直に引き下がってくれるそこは紳士。
思わず安堵の吐息が漏れた。
「何だよそういう事って」
納得いかなさそうに佐原さんが眉間に皺を寄せる。
「お前も嫌なら嫌ってはっきり言え。俺の時みたく……」
ふいっと不機嫌に自分の席に戻っていく佐原さんの後ろ姿に、涙を堪えながら小さく謝った。
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