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お店と隣のビルの狭い隙間で漸く手が離れる。
「山口……その、本当に、本当に俺の事……」
苦しそうに彼が見詰めてきて、私はこくんと一つ小さく頷いた。
瞬間、安堵の笑みで彼の目尻にできた皺。
数日見る事のなかったそれすら愛しい。
思わずその皺に伸ばした指先が触れる。
愛おしさに泣きそうになる。
私の手に彼の手が重なった。
「ゴメン、嘘ついた。山口は犬なんかじゃない。……前にイケメン好きって言ってたから、俺、自信無かったんだ。あんな事言って、バカだった」
イケメン好き……。
確かに言った覚えはあった。
彼と壁とに挟まれながら『どんなのが好みなの?』と聞かれた。あの時彼は酔っていた。
キスできそうなくらいに近い距離の恥ずかしさを耐えきれず、咄嗟についた嘘だった。
『巨乳好き』は確かその時の返し。
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