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「なんでないのよ」とミクルは憤慨した。
公園でミクルがエアギターを弾いていて、和真はベンチの隣でボーッと新緑を見ている。
「崇志が好きなんだろ」
「和真も好き」
「も、だろ?」
「あ、パパが来たよ」ミクルが立ち上がり、人影に手を振る。
「パパ、じゃねぇよ。生物学上の父親」
「こんにちは! このまえはいきなりぶん殴っちゃってすみませんね! 今日は和真がパパさんと二人じゃ気まずいからって、私もお墓参り、ご一緒してもいいですか?」
「あ、はい」秀輔は明るいミクルを見て、戸惑いがちに答えた。
「気まずいとか言うなよ」和真が声を抑えて言う。
「だって気まずいって言ったじゃん」
「しょうがねぇだろうが、会うの二回目なんだからよ」
「私は初対面でも平気」
「おまえは図々しいからだろ」
「いいから、行こ!」ミクルは和真の腕を取って、歩き出す。
「腕組むんじゃねぇよ、誤解されるだろうが」
「いいじゃん、別にぃ」
キャイキャイはしゃいでいる二人の背中を見ながら、秀輔は緊張がほどけて行くのを感じた。和真から電話をもらったときは驚いた。秀輔も行ったことがない妻の墓参りの誘いだった。それでも電話での和真の口調は硬く、会っても目も合わせないのではないかと思ったが。
「こっちですよ~」とミクルが公園の出口で呼ぶ。和真もチラリと秀輔を見る。
「はい」と答えながら、秀輔は胸の中で、太陽や緑、子どもを残してくれた妻、何もかもに感謝した。
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