最終章 チエシャネコ 

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最終章 チエシャネコ 

 とうとう、キツネの像が割れたらしい。パキンと小さな音がする。 『うらめしや』  風に乗って、声が届いた。老若男女、たくさんの人間が少しの狂いもなく、いっぺんにしゃべった不思議な響きだった。  セミが耳が痛いほど大声で鳴いてどこかへ飛んでいく。 『憎い憎い、あの方を奪った女』  若い女の声をした枝その一が言った。 『あんな若造に大事な土地を奪われてたまるか! 先祖に申し訳がたたんわ!』  枝その二はしわがれた老人の声で呪った。 「なんと、今までこの木に釘をうちつけた者の呪いの記憶か」  ユキの毛はいがぐりのように逆立っていた。  ミズキはペタンと座り込んだ。まじりっけなし、純度百パーセントの恨みを叩きつけられて、足が震える。息が苦しい。背中が寒い。おなかに力をいれて、手を握り締めないと、魂を抉り取られてしまいそうだ。 『呪われよ、呪われよ、呪われよ』  葉がこすれあう、ガサガサとした声は、御神木その物の声。 『我が身に恨みの杭を打ちつけた人間ども。夜な夜な我が身をさいなむ人間ども。呪われよ、呪われよ、呪われよ』 「なるほど」  ユキがかすれた声で言った。     
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