7人が本棚に入れています
本棚に追加
最終章 チエシャネコ
とうとう、キツネの像が割れたらしい。パキンと小さな音がする。
『うらめしや』
風に乗って、声が届いた。老若男女、たくさんの人間が少しの狂いもなく、いっぺんにしゃべった不思議な響きだった。
セミが耳が痛いほど大声で鳴いてどこかへ飛んでいく。
『憎い憎い、あの方を奪った女』
若い女の声をした枝その一が言った。
『あんな若造に大事な土地を奪われてたまるか! 先祖に申し訳がたたんわ!』
枝その二はしわがれた老人の声で呪った。
「なんと、今までこの木に釘をうちつけた者の呪いの記憶か」
ユキの毛はいがぐりのように逆立っていた。
ミズキはペタンと座り込んだ。まじりっけなし、純度百パーセントの恨みを叩きつけられて、足が震える。息が苦しい。背中が寒い。おなかに力をいれて、手を握り締めないと、魂を抉り取られてしまいそうだ。
『呪われよ、呪われよ、呪われよ』
葉がこすれあう、ガサガサとした声は、御神木その物の声。
『我が身に恨みの杭を打ちつけた人間ども。夜な夜な我が身をさいなむ人間ども。呪われよ、呪われよ、呪われよ』
「なるほど」
ユキがかすれた声で言った。
最初のコメントを投稿しよう!