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なんだか、ユキの声がかすれている。
「お前のバッグが体に当って、その勢いで屋根の上からすっ飛ばされた。あの一瞬で、よくそんな判断ができた物だ。確かに土砂の下敷きにはならずにすんだが…… あばらが折れたかと思ったぞ」
「死ぬよかマシでしょ」
「違いない。ところでその手、何とかした方がいいぞ」
「うお、指先がむけとる! 血が出てきた! さっき掘ったときか!」
「こらこら、制服で拭くな、制服で。子供じゃあるまいし」
「どうせ、こんな土だらけじゃクリーニングに出さないといけないもん」
ユキは、ふうっと溜息をついた。
「なぜ、私を助けようとした?」
「あのねえ、その耳、誰にやられたか知らないけどさ。たぶん、アンタの仲間に襲われた所をみると、どうも田中のバカッぽいけど…… とにかく、人間全部がそういう事をやるってわけじゃないのよ」
「なるほど。お前のように、目の前で埋もれそうになっているネコを助けようとする者もいるということか。指先にケガをしてまで」
「そういうことよ」
「自分の死を覚悟の上で」
「大げさね。別に指の皮がむけたくらいで死にゃしないでしょ」
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