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「自己嫌悪、というのだろう、こういうの」
ニセミズキが、新しい標的にむかってかけだした。
「きゃああああ!」
新種の獣のように、梨理は悲鳴を上げた。
(昨日の夜、襲われた時は悲鳴も上げられなかったもんだけど……)
「って、そんなことに感心している場合じゃない!」
なにか、いい方法はないか。ちんたら考えているヒマはない。一か八か。ニセミズキは、梨理の心に影響を受ける。ならば!
ミズキはカバンの中に手を突っ込んだ。
「そいやあ!」
宙を舞ったのは、青い花束だった。丈夫な造花は、花びらを散らせもせず弧を描く。そして、梨理の頭と振り上げたニセミズキの手の間にすべりこむ。
「あんたの愛しい人がくれた花束よ! 恋する女の子ならぶっ壊すことなんて出来ないでしょ!」
偽者の手が止まった。花束が、パサッと落ちた。
「よっしゃ!」
唇をペロッとなめて、ミズキは本殿に駆け寄った。賽銭箱に足をかけて、思いっきり鈴の綱を引っ張る。割れなかったクス球のように、鈴は屋根から引っぱがされた。
「せいや!」
ミズキは紐をぶんまわした。石畳に叩きつけられるより先に、鈴は音を撒き散らしながら弧を描いた。
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