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「ブービーから聞いたとは思うが、今回の騒ぎは私の責任だ。人間の男を襲ったのは、復讐のため。お前を足止めして、梨理の駆けた呪いにミズキを近づけたのは、人間の本質を見極めたかったからだよ」
「本質?」
アホなオウムのように、霧崎はその単語を繰り返した。
「私は、わからなくなってしまったのだ。人間が、どういう生き物なのか。私は、子猫の時、お前に拾われた。毛布とミルク、うれしかったぞ」
ユキの口調はどこか懐かしそうで、ミズキは若いころの恋の悩みを話してくれたおばあちゃんを思い出した。
「……」
「でも、ある日から急におかしくなったな。家の中のものがどんどん無くなって、四角い箱だらけになった。今ならわかる。段ボール箱の中に荷物を詰めたんだ。そしてお前達は、引越しのトラックに私を乗せてくれなかった」
霧崎が何か呟いたけれど、その言葉は雑音にかき消された。
「私は、分からなくなったのだよ、霧崎。人間は、ミルクをくれた手で、私達を殴りつける。猫なで声で――おもしろい言い回しだな―― 呼び寄せたかと思うと、つきはなす。だから、私は人間の本質が知りたかったのだ」
「本質。つまり、人間の本性か。いい奴か、悪い奴か」
「そうだ」
「で、答えは出たのか」
「さあ。結局わからなかった」
「だろうな。人間の俺だってわからないよ」
霧崎はまた口を閉じた。
「霧崎。私はもうお前を恨んではいないよ」
「そうならいいのだが」
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