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「それはそうだろう。毎晩毎晩、呪いの言葉とともにドテッ腹に釘を打たれては狂いもする」
か細い笛のような悲鳴が聞こえた。枝に貫かれた小鳥がぼとっと地面に落ちる。
枝からは、まだしつこく声が聞こえてきた。
『あの侍、よくもかかあを無礼討ちに…… この恨み、きっと晴らして……』
『よくも、あたいを二束三文で売り払ってくれたねえ! 実の親がさあ!』
いったい、何百年分の恨みがここに溜まっているのだろう。
『くそ、僕のカブトキングのカード返せ!』
「うお、現代っ子恨みチッさ!」
「くだらないことを言っている場合かミズキ! 霧崎、何とかしろ!」
霧崎は応えるかわりになにやら呪文を唱え始めた。早口だし、昔の言葉使いらしく、『フツ何とかの御霊』とか、『何とかしたまえ』とか、所々聞き取れるけれどミズキにはよく分からなかった。
御神木は、苦しんでいるように幹を揺さぶっている。緑色の紙ふぶきのように葉っぱが散った。
「オオオオオオオ……」
冬の木枯らしのような悲鳴が幹からにじみでる。
「すごい、タダの足手まといじゃなかったのね」
ミズキは、目に見えない力が霧崎の言葉に応えて流れ出るのを皮膚で感じた。静電気が混じった温い風のような、見えない霧の流れのようなその力は、御神木の幹に絡みつき、締めつけていた。
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