補陀落

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いにしえよりここは見捨てられた土地だった。 痩せた土は僅かな植物しか育たず、 四方は荒波に呑まれる断崖絶壁。 船をつけられるのはたった一か所、南の入江のみで それも海の穏やかな、月に数度の日に限られていた。 そんな何人も踏み入れられぬ孤島であっても 集落はあり、身を寄せるようにして人々は暮らしていた。 祖は海賊だったとも、(まつりごと)を追われた(みかど)だったとも、 罪人だったとも伝えらる。 リンは村の(おさ)の娘だった。 貧しい村だから、特に長の家だから食べ物が沢山食べられるとか 良い暮らしができるとか言う訳ではない。 時の帝や朝廷の威光が届くすべもない辺境の地。 何か村人同士でもめ事や諍いがあった時の、調停役・・といったところだ。 リンは以前、島の漁師のところに嫁に行ったが 子もなさないうちに、漁師は漁にでたまま戻らなかった。 五年間、漁師の両親とともに帰りを待ったが、 義理の父が病に倒れ、後を追うように義母が同じ病で亡くなると 実家である長の家に戻り、父の世話をしていた。
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