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「た、た、たらいまー。 しぬー、おなかすいたぁー」
姿を見せたのは、丈二の隣りに住む、マリアだ。
丈二は、何も言わずに立ち上がると、味噌汁と飯をよそい、テーブルに置いた。
ついでに、卵焼きも半分にしてやる。
「マリアさん、徹夜か? 無理すると体壊すぞ」
漫画家のアシスタントをやっているマリアは、朝帰りが多い。
それどころか、何日か泊まり込むのも珍しくない。
そして帰ってくる時は、決まって見るも無残なほどボロボロの姿なのだ。
「あーーーー、ごはん! 丈二くんのごはんサイコー」
徹夜ハイになっているマリアはよろけながら食卓に着くと、律儀に両手を合わせ、
「いただきます!」
と言ってから、味噌汁の中に飯を突っ込んだ。
それを高速でかっ食らう。
そんなマリアの姿を、苦々しい微笑みで眺めながら、丈二は食後用にコーヒーをセットした。
「いいの、あたしは。アシスタントで食べられなくなったら、画家やるから!」
ねこまんま飯を全て飲み込んだマリアは、卵焼きをぱくつきながら丈二の小言に答える。
「それ逆だろう、……」
「ごちそうさま!」
丈二の言葉をぶった切ってマリアは立ち上がり、食器を流しに置いてクルクルと洗った。
それを水切りカゴに入れてしまうと、タオルで手を拭きながら、未だモグモグと口を動かしている丈二に、にっこり笑う。
「おやすみ、丈二くん!」
「おう」
あー、あの目の下のクマさえなきゃ、かなりの美人なのにね、と、隣人マリアを残念に思う丈二だった。
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