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「ごっそうさん」
朝食を食べ終えると、セットしておいたコーヒーメーカーからコーヒーの香りが漂い始めた。
すると、春の訪れに気づいた熊のように、丈二のもう1人の隣人、一郎がのっそりと部屋から出てきた。
「あぁ、丈二さん、おつかれ」
若さゆえなのか、鈍感なのか、体温調節がイカれているのか。いくら3月下旬とはいえ、桜の開花も遅れている肌寒い朝っぱらだというのに、一郎は短パンにTシャツ姿だ。
「お前、寒くないのか?」
ほぼ毎日その姿を見ている丈二であったが、癖のように毎回聞いてしまう。
「 ねぇ。俺の分もある?」
一郎にとっては、丈二の質問などもはや「おはよう」と同義語であり、自分の朝食にありつくべく、鍋を覗き込む。
「ナメコだ!」
そして、嬉しそうに茶碗と椀を取り出し、飯と味噌汁をよそう。
それから生卵を取り出すと「やっぱTKGでしょ」を合図にパッカーンと卵を白米の上で割り、醤油を垂らし、ぐるぐるかき混ぜる。
「おやすみ。5時になったら起こしてくれ」
丈二はそう言い残し、部屋へ向かう。
「ううご」
背後の返事らしき音に片手を上げ、この隣人もなんだかなぁ、とため息を漏らした。
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