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「あれ、丈二さんは?」
「ねた」
布団に寝転びながら二人の会話が聞こえていたマリアには、一郎が起き出してきたのはわかっていた。が、丈二がいないとわかると少しだけガッカリした。
丈二は不思議な男だ。
忙しい合間をぬって、毎日朝食と夕食を必ず用意している。その上、ムラのある一郎の掃除やマリアの洗濯に文句をつけたことがない。
年はマリアよりずっと年下なのに、落ち着きがあり、あまり表情を変えない。
けれど接客をしているからか、話していると穏やかな気持ちになってくる。
コーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、4人がけテーブルの一郎の斜め向かいに腰をおろす。
「あー、ごちそうさま」
一郎は食器棚からカップを取り出しコーヒーを注ぎ、冷蔵庫から牛乳を取り出しカップに注ぐ。そうして立ったままコーヒーをぐびぐび飲んだ。
「ねえ、マリアさん、俺の着るもの、もうこれしかないんだけど」
呼ばれてマリアが目線を向けると、一郎はTシャツの胸のあたりに印刷されている安っぽいガイコツのイラストをつまんでいた。
「だから?」
コーヒーを味わいながら、面白くなさそうにマリアは答える。
「だから、じゃないよ。洗濯係マリアさんじゃん。ちゃんとやってくれないと、困るんだけど!」
一郎は乱暴な仕草で、コーヒーカップをテーブルに置いた。中身は空っぽ。もう飲み干したらしい。
「留守にする前に洗濯してくんなきゃ、困るんだよ! ちゃんと係があるんだから、」
「そんなに困るんなら、自分で洗濯機回しなさいよ! やり方くらい知ってんでしょ。頭いいんだから!」
一郎の言葉をぶった切って、マリアは鬱憤を晴らすように怒鳴り散らした。
それから勢いよくコーヒーを飲み干し、
「あたしはね、引きこもりのあんたと違って働いてるの! 色々あんのよ!」
叩きつけるようにカップを流しに置くと、ドスドスと洗面所へ向かった。
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