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キンキンに冷えたジョッキグラスに注がれた、これまた冷えたビール。
熱帯夜の締めはこれだとばかりに居酒屋に集まる人々。
賑わう店内に乾杯の声が響いた。
「ああ~っ……最高っ!おかわり!」
一気にビールを飲み干した琴美が、空のグラスを勢いよくテーブルに置いた。
「あははっ。いい飲みっぷりだね、琴美。それにしても、久々の同期会なのに古賀君が来られなくて残念だったね」
「まあ……工場は今時期フル回転で忙しいみたいだから仕方ないわよ。とはいえ、家に帰れば毎日嫌でも顔合わせる訳だし……。マンネリ防止にはちょうどいいかな」
「そっか……。二人は同棲してるんだもんね。結婚とかはまだ考えてないの?」
「お互い仕事人間だからぜーんぜん。そういうお二人さんはどうなのよ。神谷の方は虎視眈々としてそうだけど?」
「んぐっ……!?」
私の左隣の席で興味無さそうにしていた神谷が、突然のフリに驚いたのか一瞬喉を詰まらせる。
「大丈夫……?」
「だ、大丈夫だよっ……!」
心配になって顔を覗き込むと、目の玉をキョロキョロと世話しなく動かした後、不自然にそっぽを向かれ……。
「……?」
午前中互いの実家に顔を出した後は、映画やカフェ、ショッピング等々。
昨晩の言葉通り、何でも希望を叶えてくれる神谷に甘え、休む暇も与えないままあちこち連れ回してしまった。
そのせいだろうか?
店に入ってからの神谷は、どうも虫の居所が悪い。
「ははーん。なるほど」
「え?」
何かを察した様子の琴美の目がキラリと光る。
「神谷くんはシロと二人っきりじゃないのが気に食わないみたいだね~」
「ちげえよ!」
「へえ、違うんだ……?」
「違っ……わない事もねえけど……。でも、シロが楽しいなら別に……いい」
「……あははっ。噂には聞いてたけど……神谷ってば本当丸くなっちゃって。可愛い~」
「うるせえなっ……!つうか、わかってんなら呼び出すんじゃねえよ!」
「ちっちっち。わざとだよ?」
「てめえっ……!」
むきになって怒る神谷を手の平の上で転がす琴美。
そこへ遅れてやって来た山口君が混ざれば、もうしっちゃかめっちゃかで……。
まるで新人の頃に戻ったみたいに懐かしい光景に私は最後まで笑いっぱなしだった。
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