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「はあ~っ!最高に楽しかった!」
「俺は最高に疲れたけどな」
「あははっ」
二次会に行くという琴美達と別れ、気持ちのいい夜風が吹き始めた大通公園を神谷と二人並んで歩く。
「でも、本当ごめんね……?一日中私のワガママに付き合わせちゃって」
「……別に」
「おかげで楽しい一日だったよ」
「あっそ」
こめかみの辺りを掻きながら、目を伏せた神谷の口元に浮かぶ照れくさそうな笑み。
琴美は彼が変わったと言っていたけれど、こういう素直じゃない部分は変わらずにあって、でもそんな一面が堪らなく愛しくて……。
こうして『好き』がまた一つ募ってゆくんだ。
スポットライトに照らされ、水飛沫や流水音がなんとも涼しげな演出をみせる噴水にたどり着いた時、ふいに神谷が足を止めた。
「ここ……昔来たの覚えてる?」
「ああ……そういえば。あれは確か新人研修が終わって……。そうそう、私が配属先の大分に引っ越す前の日だったよね。いきなり、デートしようなんて言い出すから驚いたんだから」
転勤が多かったあの頃、神谷と会える機会といえばたまにある同期会か会社の年中行事位だった。
数年後、やっと本社に戻って一緒の職場になったかと思えば、上司の昇進をかけたライバル同士になってしまい……。
現在では真壁部長が運営部の総責任者としてその手腕を奮い、当時対抗馬とされていた泉部長……もとい龍之介さんは、出張や残業の無い人事部への異動願いがめでたく受理され、管理者として仕事と家族の両立に成功している。
結局、派閥争いなんてのは勝手に回りが作り上げたものだったんだよね……。
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