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柔らかく微笑んだ泉部長に、ぶっきらぼうな返事を返すと、真壁部長はそのまますたすたと先に行ってしまった。
慌てて後を追いかけようとする私に、泉部長が続けて声を掛けて来た。
色素の薄い瞳に、私が映る。
「君も大変だね」
「っ……お疲れ、様です……」
声に動揺が伝わるのを隠せずに、私はサッと顔を下げた。
神谷は今……一体、何を考えどんな表情をしているのだろうか、そればかりを気にしてしまう。
彼とすれ違うだけのほんの短い時間が、とても長いものに感じられた。
私の後方で、何事もなかったかのようエレベーターの扉が閉まる音がした。
どうして、私達はこんな風になってしまったのか……。
惑う心に足を止める。
『はじめまして。神谷律です』
『……はじめまして。臼田紫帆です』
もしも、時間を戻せるのであれば……。
私は、新人研修で初めて自己紹介をしあった、あの日よりももっと前に戻りたい。
きっと、神谷は覚えていないだろう。
私達が交わした、最初の会話を……。
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