隣にいて欲しい

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 翌日、体調も全快したぼくは学校に行こうとした。例によって和海が迎えに来た。 「たっちゃん。おはよう! 熱は冷めた?」 ぼくはその問いに答えずに通学路を突き進む。もう和海と口を聞きたくないとさえ思えていた。 「ああ、そうそう。席替えやったんだけどね」 どうでもいいよ。何やらぴーちくぱーちくと言っているようだったがぼくはロクにその言葉に耳を傾けなかった。 教室に入り自分の席に座ると友人が荒い口調で言った。 「そこ、俺の席なんだけど」 「はぁ? 席替えでもしたの? ぼくの席どこ?」 友人は憮然そうにぼくの新しい席を指差した。教壇の真ん前のクソ席だ。これじゃあ授業中コソコソと携帯ゲームの通信対戦も出来ないじゃないか。ぼくはくじを引けなかったから最後に余った席だったんだろうな。余り物には福があると言うことわざは大嘘だ。 ぼくは憮然そうに新しい席に座った。そして隣の席を見ると信じられない顔があった。 和海だ。前の席は後方の窓際で目立たないいい席だった。それよりメリットがあったのは和海と離れられると言うことだった。和海は近眼故に眼鏡をかけている。だから席替えの際には「黒板が見えないので前にして下さい」と言っている。だから最前列と最後列で和海と離れられる前の席は最高だ。楽園と言えた。しかし、ぼくがいない間に行われた席替えでこの楽園からは追放されてしまった。余り物には福があるならそれを与えるのは神さまだろう。勝手にリンゴを食べたわけでもないのに神さまはぼくを楽園から追放してしまった。この世に神はいないのか。
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