隣にいて欲しい

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「たっちゃん、席隣だね」 和海が見せる満面の笑みを見てぼくはすごく腹が立った。家が隣同士で常時くっついてくるだけでも鬱陶しいのに学校の授業中までも隣同士だぁ? ふざけやがって。ぼくがこいつから離れられるのは体育の授業とトイレしかないのか。 「ふざけやがって! こんなのやり直し! ぼく席替えのくじ引いてないからノーカウント! やり直し!」 ぼくは皆を煽った。こうすれば同調してくれるはずだ。しかし、他の皆は席に不満が無いのか同意の声が上がらない。 「先生の目の前の席だからってイヤがってんじゃねーよ!」 「そうだ! そうだ!」 どうやら教壇の真ん前の席を充てがわれた事に対する不満だと思われたようだ。それも嫌だけと和海の隣ってのが嫌なだけなんだよ。普段和海の事を鬱陶しいと愚痴を聞いてくれる友人よ察してくれないか。 「くじ引きに不満言ってるんじゃねーよ!」 「くじ引きの結果は甘んじて受けろよ!」 察しの悪い友人だ。隣が和海なのが嫌なだけだって分かってくれよ誰か。 「隣がこいつなのが嫌なだけなんだよ!」 ぼくは和海を指差してハッキリ言ってやった。和海はそれを聞いて顔を隠して泣き出した。 「なーかしたーなーかしたー せーんせーにいってやろ」 「ちょっと! 委員長が可哀想じゃないの!」 先生に告げ口をする時の歌の合唱が始まった上に女子が和海を慰めはじめている。これじゃあぼくが100%悪者扱いじゃないか。ちょっと男子― 合唱するぐらいならさっきのノーカンコールに参加してくれよ。合唱コンクールの時よりやる気あるんじゃないか? 「うるせぇ! ぼくはこいつ嫌いなんだ!」 ここで引くわけには行かない。ここは自分の意思をキッチリ表示しておかないとこの先ずっと和海と一緒にいる羽目になる。 すると、和海が更に泣き出した。何なんだよこいつ。 「委員長に謝りなさいよ!」 謝ったところでぼくが和海を鬱陶しく思うし嫌いなのは変わりない。もう諦めてくれよ。単なる幼馴染相手にそこまで一緒にいる必要も無いだろ? 「あたし、たっちゃんの事好きだもん……」 和海は嗚咽混じりの声で言った。最悪だ、こっちの意思は関係ない。合唱は知らぬ間に冷やかしの意味のヒューヒューコールに変わっていた。友人まで一緒になってコールを上げている。 「だからぼくはお前のことなんて」 「可哀想じゃない! 幼馴染なんだから受け止めてあげなさいよ!」
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