僕だけの、君の名前

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 エリクは目を覚ました。     視線を窓に向ける。外は暁闇。だが、あの死と氷の山、偉大なるトロス山脈の威容は、闇を突き破ってエリクの網膜に映り込んでいる。  宿の建て付けの悪い窓枠から、山岳地帯特有の冷涼な空気が密やかに入り込んでくる。それが、彼の未だ曖昧な意識を多少はっきりとさせた。  今日は、あの山に登らなければならない。あの山から血液のように流れ出ている、あの氷河へ、そしてあの氷河に傷口のように開いたクレバスへ、何としてでも行かねばならない。  それが、新たな運命の出発点なのだから。  痩せ衰えた身体をやっとの思いで寝台から起こすと、白髪で真っ白の頭を打ち振りながら、エリクは部屋から出て行った。
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