僕だけの、君の名前

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 魔術師エリクが生を受けたのは、わずか18年前のことだ。だが、この18年間こそは、人類がそれまでの歴史で体験したいかなる時代と比較にならないほど、濃密で、陰惨で、そして栄光に満ちていた。  彼が生まれる二年前、世界の片隅に魔王が降臨した。魔王は眷属を増やし、領土を侵し、人類の血と涙と肉を大地にばら撒きながら、勢力圏を拡大した。人間の軍は勇猛果敢に戦い、そして各地で惨敗を重ねた。  そんな暗い時代、エリクは国内で有数の実力と伝統を持つ魔術の名門に生まれた。  宮廷魔術最高顧問官の父親は、我が子がその身に秘める魔力の強さに目を見張った。エリクは立って歩くことができるようになるや否や、将来の決戦における要となるべく厳しい教育を受けた。  鍛錬の合間に、父親は決まって訓戒を垂れたものだった。 「エリク、お前は人類の希望だ。お前が身に宿す魔法力こそ、魔王討伐に欠くべからざるもの。身を持せよ。女人と交わってはならぬ。女人の肌の温もりを覚えてはならぬ。女人を知ればお前は、その身に宿す力をすべて失い、而して、世界は破滅するであろう。これを戒律とせよ」
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