一粒の涙

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「華月は、どうなるのですか?」 僕が医師に問いただすと、医師も困ったような表情を見せていた。 「氷が溶けないことには何ともできません。  あまり長い時間このままの状態ですと仮死状態から目を覚ますことが難しくなるかもしれません。」 氷を溶かすには、温める、熱湯をかける、ハンマーやノコギリで解体するといった方法が考えられるが、ハンマーやノコギリを使うと華月の体に傷を負わせることになりかねない。 医師が今後の対処について話してくれた。 「これから、この方を別の部屋に移します。  そこで部屋の温度を高温にして氷を溶かします。」 医師がこう話すと、複数の看護師が華月のベットを別の部屋に移動した。 その部屋は、隣の部屋から様子を見ることができるようになっていて、僕はその隣の部屋に案内されて様子を見ていた。 華月のベットは部屋の真ん中に設置して、看護師は全員部屋から退室した。 「それでは、これから部屋の温度を上げます。」 医師がこういうと、パネルを操作して部屋の温度を上げているようだった。 部屋の温度は少しずつ上昇し50度まで達したが、氷が溶ける気配はなかった。 このままの状態で1時間以上経過を見たが、氷は一向に溶けなかった。 このような状況に医師も困惑したようで、僕に話しかけてくれた。 「一旦空調を停止します。  至急対策を検討します。」 「華月のそばにいてもいいですか?」 僕が話しかけると医師が答えてくれた。 「部屋の温度がある程度下がったら入室してもかまいません。」 と言って、頭を下げて部屋を出て行った。 看護師1人が残って、様子を見てくれるようだった。
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