墓石が乾かぬうちに

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     ◇  ハワードが妻子を亡くしてから八年が経った。四十を迎えてもハワードは結婚指輪を外そうとしなかった。  生涯愛するのはジェニファーただひとりだけである。愛する者たちを失ったハワードの生活は順調とはいえなかった。彼の暮らしは荒んでいた。ミラーへの傷害事件が尾を引き、ハワードはNYPDから分署へと飛ばされていた。分署でのハワードは厄介者の烙印をおされて、現場にはいっさい呼ばれず、積みあがった書類仕事を片づけて一日が終わった。  J・ミラーの殺人は今なお続いている。ハワードの待遇の悪さは、彼をJ・ミラー事件から遠ざけようとする上の判断だった。クビにした途端、何をしでかすかわからない。単身ミラー事件を追いかけて、やがて破滅するだろう。ハワードを飼い殺しにした判断は正しかった。J・ミラーの犯行は年々過激になっていき、また、彼のハワードに対する嫌がらせも件数を重ねていった。  ハワードの妻子が殺害された六月二十四日は奇しくもハワードの誕生日だった。J・ミラーはハワードへの誕生日プレゼントとして、ジェニファーとジャックの死体の写真を毎年送り続けていた。周りはハワードに引っ越すように勧めたが、彼は愛する妻子と暮らした家を手放す気になれなかった。現場となった寝室はそのままにしてある。血の染みついたラグを取り替える気すらハワードにはなかった。  退屈な仕事を終えたハワードはまっすぐ家に帰り、それから綿密に計画を練る。愛する者たちを奪った殺人鬼に報復を。  マイケル・J・ミラーをこの手で殺す。  窓際に追いやられてもハワードの復讐心が途絶えることはなかった。独自に情報を集め、マイケルがJ・ミラーである確実な証拠を探した。  ハワードは長い時間をかけてミラーがミスを犯す機会をうかがっていた。そして、ようやく手がかりを見つけた。だがハワードはそれを組織に渡すことはせず、自分だけの手柄にした。逮捕はしない。この手で殺す。支度を終えたハワードが家を出ると、大粒の雨が降り出した。
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