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 目を覚ますと、汗と情事の名残の生々しいにおいが鼻をついた。部屋はまだ薄暗い。翔一郎さんに片腕で抱きしめられていて、気持ちよさそうな寝息がすぐそばで聞こえる。柔らかな幸福感に包まれ、しみじみ幸せで、泣きたいような気分だ。  そっと、翔一郎さんのぬくもりにもっと寄り添う。目の前にある翔一郎さんの手に、指先のギターだこを感じられるように、俺の手を重ねる。緩やかに弧を描く眉。少し垂れた目尻には、皺ができていて。薄い唇は、少し微笑んでいるかのように緩んでいる。  こうして一生、寄り添っていく。そう決めている。重いヤツだと思われるから、まだ言葉にしたことはないけど、将来は介護だってするし、最期も看取りたい。そのぐらいの覚悟がなきゃ、年が離れてる俺達の間で、愛してるなんて言っちゃダメだと思う。  はっきりとは言わないものの、翔一郎さんもその辺を気にしているのを感じる。それでも、いろいろ考えた上で、ハルの歌に背中を押されるように、俺の気持ちを受け入れる決心をしてくれた。俺が愛してるって言葉を安売りしているわけじゃないことも、分かってくれてるはずだ。  翔一郎さんの寝顔を眺めるまぶたが自然に下りてきて、また眠りに引きこまれそうになった時、ふいに俺を抱きしめていた腕が動いた。ドキッとして眠気も吹き飛んでしまい、俺はとっさに寝たふりをする。  あくびをかみ殺す気配。俺を抱き直し、重ねた手には額が寄せられて、さらりと髪が俺の手をくすぐった。お互い、相手が眠っている間にぬくもりをもっと求めあう。ささやかだけど、これほど深い幸せはない。 「……もしかして、起きてる?」  抑えた低い声に、俺は頬が緩むのを止められなかった。目を開けて、微笑みをかわしあう。 「あのさ……。もう一回、しない?」  完全に撃ち抜かれた。至近距離で恥ずかしそうに目を伏せるのに、ぞくぞくするほど欲情する。今まで、こんなふうにねだられたことはなかった。スキンシップやキスが好きらしいのには気づいていたけど、それと性欲は、ちょっと違う気がしていて。 「じっくりしたつもりでしたけど、足りませんでした?」  少し意地悪がしたくなって、訊いた。 「いや、なんて言うのかな……。遠慮しないで、したいだけして欲しいというか……」
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