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 翌日、俺達は今井さんと顔をあわせることもなく、名古屋駅でモーニングを食べた後、新幹線で広島に移動した。移動日ってヤツで、ライブはない。二人で新幹線の中でいろいろ話せて、軽く観光なんかもしてリフレッシュ。  広島で一泊してライブ当日を迎え、俺は名古屋でボロボロだった分も取り返してやろうと、気合が入っていた。 「隆宣君、ちょっと」  広島のホールでのリハが終わり、本番まであと数十分。トイレから楽屋に戻ろうとすると、廊下にいた大橋さんに呼ばれた。  大橋さんはあたりをうかがうようにしてから、小声で言った。 「念のためドラム周りをチェックしといた方がいいと思う」  大橋さんは神経質そうな顔をゆがめ、今のうちに早く、と俺の肩をたたいてステージの方へと押す。 「えっ、どうしてですか?」 「いいから、早く。俺も行くから」  大橋さんの顔は真剣だった。俺はうなずき、大橋さんと一緒にステージに向かう。今回のツアーは冒頭で演奏と同時に幕が落ちる演出だから、ステージに幕が下がっている。だから本番前でも、お客さんに姿を見られずに済む。 「さっき、今井さんがドラムセットの前にしゃがみこんでるのを見たんだ」  廊下を風を切る勢いで歩きながら、大橋さんはやっと聞こえるほどの声で早口に言った。 「……今井さんが?」  ぞっとした。まさか、サポートしているツアーで、同じサポートメンバーに妨害? そんなことをする人が、本当にいるのか?  「どうしました?」  まだ時間じゃないのに揃ってステージに来た俺達を見て、袖にいたローディーさんが不思議そうな顔をする。 「うん、ちょっと気になることがあって」  大橋さんが答え、二人でドラムセットへと急ぐ。俺は深刻な雰囲気で急ぐ大橋さんにつられるように動いていた。まさか、という思いばかりで、心臓がバクバクして頭がうまく働かない。  ぱっと見、ドラムセットに変わりはない。大橋さんにうながされて、演奏中に座る丸椅子に座ると、いきなり身体が沈んだ。信じられない。椅子の高さを調節するネジが緩んでいる。思わず、大橋さんと無言で顔を見あわせる。 「他もチェックしましょう」  楽器には責任があるだけに、俺達の様子を見に来たローディーさんもただならぬ雰囲気を察して、ドラムセットをチェックし始めた。 「あっ」  俺は思わず声を上げた。バスドラを打つためのフットペダルが、踏んでも動かない。
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