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眼鏡を乱暴に外し、顔を両手で覆ったまま、またため息。
今井さんはやっぱり、俺達の仲を知っている。どうすればいい? ライブはあと五本ある。その間なんとか、これ以上は何事もなく終わらせたい。俺達の幸せを、翔一郎さんを守りたい。
いっそ、二人一緒の移動はやめた方がいいのか? でも、今井さんに探りを入れられたからって、すぐに反応するっていうのも、思うつぼだったりするんじゃないか? 今日俺の演奏が乱れたこと自体が、もしかして狙い通りだったりするんじゃないのか?
ダメだ、次々いろいろ思いつきはするけど、目的もないままあちこちに玉を投げまくっているだけって感じで、全然考えがまとまらない。
いい加減、シャワーを浴びようと起き上がった時、LINEの通知音。
「今電話できる?」
翔一郎さんだった。顔を見て話したくて、たまらなくなる。でも、今井さんに俺達の関係を察知されてるのが確実だからなおさら、数部屋隣にいても、部屋に行くのはやめた方がいいだろう。
俺はLINEの返信はせず、すぐに自分から電話をかけた。
『今日はどうした?』
「すみませんでした、ボロボロで」
安心して背中を預けられると言われた直後に、早速ミスを連発してしまったのが情けない。もっと強くなりたい。
『なにかあったんだろ?』
心配そうな声。俺はリハ前に今井さんに言われたことを、翔一郎さんに話した。
『やっぱり、あいつには気をつけないとダメか……』
そう言ってしばらく、翔一郎さんは黙った。揺れる感情と戦っているのかも知れなかった。
「あの程度で動揺してしまった、俺が未熟でした」
『あの程度、じゃない』
即座に、思いがけない強い口調。でも心なしか、語尾は震えていた。
『俺はもう、あいつに幸せを邪魔されたくないんだ』
切実な声。抱きしめたくなる。今翔一郎さんは、どんな表情をしているんだろう。
「俺が守ります」
思わず、きっぱりと言っていた。あんな演奏したばっかりで、説得力ないけど。
『うん、一緒に頑張ろう』
少し明るくなる声。電話ごしの声だけだからこそ、はっきりと分かる。
「……あの、明日も一緒に移動しますか?」
言うか少し迷って、俺は部屋の中に視線をさまよわせながら言った。白い壁、無難な色のカーテン、小さな額縁に入った絵。
『なんで? 用事でもあるの?』
さも不思議そうな声で言う翔一郎さん。
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