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「ありがとう」
俺がさんざん、なにかっていうと言いまくっているから、さすがに翔一郎さんはもう照れない。瞳を細め、笑顔で受け止めてくれる。心にしみる、湖のように深く穏やかな笑顔。
たまらずぎゅっと抱きしめる。眼鏡を乱暴に外し、濃厚なキスをしかけた。同じぐらいの熱量で応えてくれる。湖面の下に隠された熱の、意外な強さ。ベッドに倒れこみ、お互いの欲情を感じあいながら、深いキスを繰り返す。
いきなり、かん高い電子音。一瞬、どきりとして真顔で見つめあった後、音の正体に気づいて苦笑い。鏡の前に置いた、翔一郎さんのスマホだ。
仕方なさそうに起き上がり、翔一郎さんが電話に出る。
「ああ、もう寝ようと思ってた。ごめん、今日はやめとくよ」
誰かからの飲みの誘いか。話しながら俺に肩をすくめてみせる翔一郎さん。邪魔しないで欲しい。でもそのいたずらっぽい表情も、いい。
「えっ? なに、酔ってんの? 違うって」
スマホから漏れる大声。なにかまくし立てていて、電話はすぐには終わらない。立って話している翔一郎さんの左手が伸びてきて、俺の髪を撫でる。俺はいつものポーカーフェイスで、お預けくらった犬みたいな顔したつもりはないんだけどな……。
「次はつきあうから。分かった、分かったって。おやすみ」
翔一郎さんは電話の相手をなだめ、苦笑いでなんとか電話を切った。
「亮ちゃん、もう酔ってたよ」
翔一郎さんが亮ちゃんと呼ぶのは、今回一緒にツアーをサポートしている、ベースの今井亮太さん。二人は年が近くて、昔からのつきあいで仲がいい。
「あいつは絡み酒だからなあ」
ちりっ、と嫉妬が心の端を焦がし、翔一郎さんを押し倒す。翔一郎さんとは親子ほど年が離れているから、嫉妬したってどうしようもない、翔一郎さんとつきあってきた年月の長さ。分かってても、俺はたぶん誰彼となく一生嫉妬し続けるだろう。
無言で翔一郎さんの肌をむさぼる。嫉妬がバレるようなことは言いたくなくて。きっと全部お見通し、ってヤツだろうけど。
「あっ……」
赤くとがった胸の突起を、両方同時に指で転がす。快感にうるんだ瞳は細められ、恥ずかしそうに視線が横に流れる。半開きの唇も色っぽくて、ずっと見ていたくなる。
でも、もっと乱れさせたい。あえぐ声が聞きたい。この人を俺でいっぱいにしたい。
俺は夢中で翔一郎さんを抱いた。
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