Candle

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 家に着き、玄関の扉を開けても、中からは何の反応もない。てっきり二人で出迎えてくれるものだとばかり思っていたから、少し拍子抜けしてしまう。すりガラスの向こう側の居間は、電気も点いていない。二人ともどこに行ったのだろうかと思いながら、靴を脱ぎ、廊下を進んで居間の扉を開けた瞬間、 「メリークリスマス!!」  と、夫と娘の声が暗い居間の中に響いた。  テーブルの上にはキャンドルライト。その周りに並ぶオードブルと手作りのケーキ。パーティーの準備は完璧に整えられている。暗闇の中でゆらゆらと揺れる蝋燭の炎が綺麗だ。これから楽しいパーティーが始まる。それはわかっている。それにもかかわらず、私の気分はどんどん沈んでいく。蝋燭の炎を見つめれば見つめるほど、胸が詰まり、息苦しくなっていく。  私の様子の変化に気づいた夫が、 「どうかした? 気分でも悪いの?」  と心配して声をかけてくれるけれど、それにすら反応できない。胸と胃がムカムカして、激しい吐き気を催す。私は耐えきれずに、そのまま床に嘔吐した。夫が慌ててグラスに水を注ぎ、持ってきてくれる。 「ありがとう」  必死でお礼を言い私は手を伸ばす。その時、私の目に、腕の火傷の痕が目に写る。それとともに、私の頭の中に嫌な記憶が蘇ってくる。それとともに、吐き気はより一層強くなり、火傷の痕がひどく疼くような気がした。     
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