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子どもに感謝する日というのは、無い。
こどもの日ですら、子どもの成長を祝うと同時に、親に感謝する日となっているのだ。
「誕生日しかないかな……」
私の最大の過ちは、楓の誕生日に死んでしまった事だ。私の命日でもある為に、夫、彦一さんは、楓を派手に祝う事はなくなってしまった。
「ほんっと、ばかなんだから……お父さんは」
私はそう言うと、まだ眠っている彦一さんの額にデコピンしてやった。まだ霊体の為、額に当たってはない。
彦一さんが仕事に、楓が学校に行った後、私は実体化できる水を飲んだ。そして、早速準備をした。
材料は、奇跡的にあった。月に数回頼む家事代行サービスの人が用意してくれたのだろう。
今日は、彦一さんは夕方六時頃、楓は夕方七時頃に帰る日で、忘れ物でもない限り、家に戻る心配はない。
私は早速、ケーキ作りを始めた。
「いい天気ね。あっ」
それなりに溜まっていた洗濯物を見つけた私は、早速洗濯機を回した。
そして、ケーキの生地をオーブンに入れて、簡単に掃除もした。すると、洗濯が終わった。
「ベランダ……は、危ないわね」
と、条件を思い出した私は、大人しく部屋干しを選択した。
そして、全てを終わらせた私は、リビングのソファーに座った。
すると、玄関の扉が開く音がして、彦一さんが帰って来た。
「なっ……渚っ……」
細い目を大きくしている彦一さんが可笑しくて、私は思わず吹き出した。
「プッ、おかえりなさい。クラッカー用意しなさいよね、楓が帰る前に、ね」
そう笑うと、私は冥府へ戻った。
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