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「わからないけど、そう聞いてくるということはかなり古いってことよね。昭和の頃からあったとか」
「いやいや、もっと古いものじゃよ。昭和、明治どころか戦国時代まで遡れるのでないかとわしは思っている」
「何か根拠があるの?」
「まあ、順番に話をしていこう。そもそもこのフレーズはどういう情景を述べたものだと思うかの?」
「隣の客がたくさん柿を食べるのよね。隣の家に来たお客さんが柿をたくさん食べているのか、列車で隣の席に座った人が柿をたくさん食べているのか……」
「どちらと思う?」
「柿って皮を剥かないと食べられないでしょ。列車で皮を剥きながら柿を食べているところは想像しにくいわ。隣の家に来たお客じゃないかしら」
「わしもそう思う。だが、隣の家のお客の様子だとすると不自然なところがある。柿の皮を剥いたり食べたりしても、特別な音やにおいがするわけではない。皮や種をこちらの家に投げ込んできたわけでもないじゃろう。このフレーズを書いた人間はどうして隣の家のお客がたくさん柿を食べていることを知ったんじゃろう?」
田笠博士は椅子の上で姿勢を直した。軽く握ったこぶしを自分の顎の先端に当て、少し顎を引いて春美を見つめる。
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