博士との会話

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「うーん、わかんないわ。どういうことなの?」  春美はあっさり白旗を上げた。博士は破願する。 「おそらくこっそりと隣をのぞいておったのじゃ。気付かれないように気を配りながらな」 「何のために?」 「客の行動について検証してみよう。よく柿を食うということだからたくさん柿を食べたのだろう」 「そうでしょうね」 「柿は古くから日本に自生していた植物じゃ。縄文時代の遺跡から柿の種が見つかっておる。日本人にとってなじみの深い食べ物での。柿の実は滋養の高い食べ物である反面、食べすぎたり、虫が入って赤くなったのを食べたりすると体が冷え、お腹を壊すことがある」 「ええ」 「石田三成の故事を知っているかの。関ヶ原の戦いで敗れ、捕らえられて処刑される寸前、見張り役に水を所望したら、水は無いが柿ならあると言われたのじゃ。そして三成は柿は体が冷えたりお腹を壊すことがあるから食べないと断った。周りは何をいまさらと笑ったが、三成は最後の瞬間まで反撃の可能性を考えて自分の体調を最善に保とうとした思慮深い人物だったということじゃな」 「しっかりした人だったのね」 「そうじゃ、逆を言うと、柿をたくさん食べている客は、思慮が無く油断しているということじゃな」 「そうよね」  春美の答えに、博士は口角を少し上げて笑った。 「そこまで考慮すると、このフレーズは『我々が密かに狙っているターゲットは油断している。ことを起こすなら今だ』というメッセージと読み取れるのじゃ」 「そうかなあ、でも、ターゲットって誰なの?」 「それも文の中に隠されておる。春美君は折句(おりく)というのを知っておるか?」 「国語で習ったわよ。和歌の語句の最初の文字を並べたら、意味のある言葉になるってやつでしょ。から(ごろも)なんとかがかきつばたになるって言う」 「そうじゃ、フレーズを文節に分けると……」  田笠博士は机の上からペンを取り、レポート用紙に文を分かち書きした。    となりの    きゃくは    よくかきくう    きゃくだ 「それぞれの最初の文字を並べると、『ときよき』となる。漢字に直すと、例えば『時、良き』じゃな。時はいいと言う文に聞き覚えはないかな?」
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