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「ねえ」
「何よ」
「頂戴よ」
「何を」
「チョコ」
「あー、バレンタイン?」
「そ。八木ちゃんからのチョコ、俺、欲しくて欲しくて堪らないのよ」
バカ。そんなに喋ったら……。
「おい、そこ! また、おまえか、夏目。私語は慎め!」
「へーい。すんませーん」
先生に注意されて謝った夏目くんは、すぐに私の方を見てペロッと舌を出した。
先月の席替えから隣の席になった夏目くんは、吹けば飛ぶような軽い男だ。
髪は金色、ワイシャツのボタンは全開で、腰パンにはお飾りのようにヘビ革のベルトをぶら下げている。
女子をちゃん付けで呼び、肩を抱いたり腰に手を回したりと馴れ馴れしい。
そんな夏目くんはムチャクチャ校則の緩いうちの学校でも、かなり目立つ存在だ。
「ねえねえ」
「何」
「だからチョコ」
「そんなに食べたいなら自分で買えば?」
「わかってないなぁ、八木ちゃんは。愛はお金では買えないのよ?」
だから、そんなに喋ったら……。
「ほう、そうか。単位も金では買えないってことはわかってるか? 夏目」
ほらね。また怒られた。
「八木もいちいち相手にするな」
「……すみません」
なんで私まで怒られなきゃいけないのよ、バカ。
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