チョコの催促

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「ねえ」 「何よ」 「お返し、何がいい?」 「あー、ホワイトデー?」 「そ。何が欲しいか教えてよ。サプライズもいいかなと思ったけど、やっぱり俺、八木ちゃんの喜ぶ顔が見たいからさ」 バカ。そんなに喋ったら……。 「おい、夏目。授業中にイチャイチャするな!」 「へーい。すんませーん」 案の定、先生に注意されて謝った夏目くんが、私の方を見てペロッと舌を出したところでチャイムが鳴った。 バレンタインデーから一か月。夏目くんと私は相変わらずの毎日を送っている。 でも……あと十日余りで春休み。このクラスともお別れだ。 「ね。クッキーがいい? それともマカロン? そういえば八木ちゃん、タルトが好きだって言ってたよね?」  「うん、駅ビルに入ってる【パスカル】ってお店のタルトが好き。いろんな種類があるけど、中でも塩ショコラが絶品で……」 つい力説してしまってから、ウンウンと頷いて聞いている夏目くんを見つめた。 チャラいけれど、いい人だと思う。 こんな私のつまらない話をニコニコしながら聞いてくれて、私が前に話したこともちゃんと憶えてくれている。 夏目くんと隣の席でいられるのもあとわずかだと思うと、無性に寂しく感じるのはいい話し相手がいなくなるからだ。……きっとそれだけのこと。 「どうした?」 黙り込んだ私の顔を心配そうに夏目くんが覗き込んだから、その距離の近さに恥ずかしくなった私は首を思いっきり横に振った。 「何でもない。それより夏目くんも大変だね。チョコをくれた女の子たち一人一人にこうやって聞いて回ってるんでしょ? 何が欲しい? って。それで、一人一人の欲しいものを買いに行って」 そんな手間暇かけるぐらいなら、やっぱり夏目くんが自分でチョコを買った方が良かったんじゃないかと思う。 人とプレゼントをやり取りする方が楽しいよって、夏目くんは言いそうだけれど。
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