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「八木さん、勘違いしてない? 夏目くんはボッチのあんたに同情してるだけだから」
いきなり話しかけられたから、とりあえず振り向いた。こういう時に限って女子トイレには誰もいない。いつもはあんなに混雑しているのに。
でも、ちょうど良かったかも。みんなの前で【ボッチ】認定されるのは、当たっているだけに辛い。
「えっと、一組の人だよね?」
私、あなたの名字も知らないんだけど。
――知っているのは夏目くんと付き合っているらしいということだけ。
「私が夏目くんと話してたのは、単に隣の席だからだよ。あなたたちの邪魔をする気なんて全然ないから安心して」
「あっそ」
バカにしたように軽く肩を竦めると、沙穂さんはトイレから出て行った。
『安心して』だなんて何言ってるんだろ。私なんて何の脅威にもならないのに。
席に戻ると、パッと顔を上げた夏目くんの表情が曇った。
「おかえり。八木ちゃん、お腹痛いの?」
「痛くないよ。なんで?」
「なんか怖い顔してるから。あー、もしかして女の子の日?」
コソッと訊かれたけれど、どうして男子って女子がイライラしていたり不機嫌だと、すぐ生理だと疑うんだろう。
「違う。もしそうだとしても夏目くんには言いたくないし」
「なんでよ。八木ちゃんが具合悪いなら、俺、すっごく気遣ってあげたいよ」
ほら、と渡されたのは貼るタイプのミニカイロ。
「お腹に貼っとけば、下痢も治るよ」
「下痢じゃないし!」
「ハハッ。良かった。八木ちゃん、ちょっと元気が出たね」
夏目くんのクシャッとした笑顔が優しくて、まだ袋から出してもいないカイロが手の中で温かく感じた。
バカだな、私。
いつの間にこんなに夏目くんのこと、好きになっていたんだろう。
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