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ホワイトデーというものは、バレンタインほど盛り上がらない日だと思う。
本命のチョコをあげた子はバレンタイン当日に玉砕したか交際が始まっているかだから、学校内でお返しをもらうことはまずない。
となると今日学校で繰り広げられるのは、義理に義理で返すという行為だけのはず。
それなのに、学校に着いた直後の私が目にしたものは、夏目くんが一組の沙穂さんを廊下で通せんぼしている光景だった。
「浅田ちゃん、ちょっと話があるんだけど」
「は? 私の方は話なんかない。本命チョコは受け取れないって突っ返したのはそっちでしょ⁉」
「だからって逆恨みみたいに嫌がらせするのはやめてくれない?」
ケンカ腰で言い合う二人の横を、みんな気まずい顔で通り過ぎていく。
沙穂さんは怒りからなのか羞恥からなのか、真っ赤な顔で夏目くんを睨んでいた。
私も素知らぬ顔で通り過ぎようとしたのに、夏目くんにガシッと腕を掴まれてしまった。
「八木ちゃん、ストップ。浅田ちゃん、八木ちゃんのこと『勘違い女』って言い触らしてるんだって?」
「え⁉」
何それ。あの時、トイレで『勘違いなんかしていない』って言ったはずなのに。
あれ? 私、ちゃんと言ったかな? 言ったよね? ちょっと言葉は違ったかもしれないけれど。
「八木ちゃんに謝ってよ」
夏目くんの喋り方はいつもオネエっぽくてソフトだ。それなのに今はナイフみたいに尖って聞こえる。
「……わかった。八木さん、ゴメンね。私が間違ってた。勘違いしてるのは八木さんじゃなくて、夏目くんの方だったんだね」
ニヤリと笑った沙穂さんに、夏目くんの眉間の縦ジワが深くなった。
「どういう意味だよ?」
「八木さんは私にこう言ったの。『夏目くんと話すのは単に隣の席だから。二人の邪魔をする気なんか全然ないよ』って。そうよね、八木さん?」
「そう……だけど……」
ついさっきまで二人が付き合っていると勘違いしていたのは私なのに、勘違いしているのは夏目くんの方だってどういうこと?
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