終章      二  記憶の影

2/2
前へ
/168ページ
次へ
 何かとても大切なことを、忘れているような気がする。 (思い出せない。でも日神の宮に行った……そんな気もする……。それから……)  なぜだか、心に亀裂が入っているような気がする。  天では、自分といっしょに、だれかがいた。  そんな気がした。  そう思うのに、何も思い出せない。 (だれか、だれかがいたはず……)  そんな人物など、思い当たらない。  そんなはずはなかった。 (それなのになぜ、こんなにも、心がかきみだされ、泣きたくなるのだろう?)  何かが足りないのに、それが何であるのかがわからない。 (なぜ――?)  四の宮が初音をはげますように、肩に手をおいた。 「まだ疲れているのよ。今は、あせらずによくお休みなさいな」 「ありがとうございます」  天から神財をいただいたのなら、もうなにも心配することはない。  しっかりしなくては。  でも、どうしてこんなに涙があふれてくるのだろう?  知らないうちに、初音の頬を、涙があとからあとから滑り落ちていった。  右手首には、黄金の蝶の痕が、きらめいている。 光が、胸の奥を射貫くようだった。 (胸が、痛い――)
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加