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終章 三 回帰する記憶
三 回帰する記憶
布団の足もとから、ふんと鼻を鳴らす音が聞こえる。
シロだった。
シロは不機嫌な様子で、ものすごいいきおいで、まんじゅうを食べ散らかしている。
「シロったらどうしたの」
「べつにぃ。初音、やっと起きたんだね」
シロがほおを寄せてくる。
「ぼく心配で、おかしがあんまり食べられなくて。ほら見て、こんなにやせちゃったんだよ」
シロはくるりと回って全身を見せた。
初音が見たところ、シロはいつも通りつややかで、元気そうだった。
だが、シロの気持ちがうれしかった。
「ありがとう。心配かけたわね」
シロの背中をやさしくなでた。
シロは気持ちよさそうにしている。
「いいよ。おかしをいっぱいくれたら、ゆるしてあげる」
初音はほほえんだ。
「シロ、わたし天へ行った?」
「天?」
「そんな気がするの」
「天へ行くなんて、おとぎ話でしょ」
シロがあっけらかんとした口調で言う。
「でも、神財が」
「ぼく、しーらないっと」
気のせいだろうか。
初音を見るシロの瞳が、わずかにくもったように見えた。
シロは初音に背を向けてうつむくと、小声でつぶやいた。
「覚えているはずないんだ……だってあいつが……。まさか、天の気を食べたから……その影響で?」
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