終章      五  蝶が還るとき

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「わたしの仙力は、強く封じられている。こんなことができるのは衛門府の者しかいない。そう思ったの」 「気のせいだ」  青年が初音に背をむけた。 「用がないなら、もう帰らせてもらう」 「行かせないわ」  初音は手のひらをふんわりと動かした。  初音の仙力が、千歳桜と共鳴する。  桜吹雪がおこった。  風は花びらを巻き上げ、青年を包みこみ、初音のほうへと押しやった。 「なんだ……こんなことまで、できるようになったのか」      青年はうれしそうに笑った。  初音は彼を見つめた。  「この蝶の封印は、誰かの強い想いが、基礎になっている。そう考えたの」 「……」 「わたしは天に行って、もしかしたら天の食べ物をとったせいかもしれないけど、邪に弱い部分は克服されたの」 「……天の気を取り入れ、千歳桜に共鳴したからかもしれないな」  初音がうなずいた。 「わたしにあなたの名前をおしえて」 「夕霧。夕霧景雅」 「夕霧さん」  初音は彼の名前を声に出して言ってみた。 「そう。やっぱり知っているような気がする」 「それで、どうしたいんだ?」 「封印を解いて」 「それは」 「できないと言わないで。わたしは、もう弱くはない」  桜の花びらは、ますます勢いを増し、二人をさらに近づけた。  彼の呼吸が、初音の頬にかかるくらいに近い。     
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