終章      五  蝶が還るとき

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 夕霧がいきなり初音を抱きしめた。  力強い抱擁――。どこか懐かしい。  右手首に小さな稲妻が走る。  右手首にあった蝶の痕が砕け散って、消えてなくなっていく。 (ああ、これで――)  夕霧の体を通して、仙力が戻ってくる。    見える。あの少女が。 (胡蝶――)    夕霧伯爵邸の別邸で、胡蝶がソファに寄りかかって座っているのが見える。  夕霧が声をかける。 「胡蝶、きみ、どうしたんだ。様子がおかしいぞ。しょっちゅう、うたた寝をして」  胡蝶が長い黒髪をかきあげた。 「なんだか眠いの……。この頃変な夢を見るのよ」 「夢?」 「ずっと初音のそばにいて、よりそってる夢」 「初音、だと?」 「憎くてしかたなかった。だけど、彼女が悲しんでいると、わたしも悲しくなってくる。あの子が、消えればいいと思っているのに、おかしいでしょう」 「初音が悲しんでる……? 初音に何があった」 「初音、初音。あなたはそればっかりね。今は、わたしのことを心配して」  花びらが降りしきり、別の日になる。  胡蝶が夕霧の腕に手をかけ、力なくほほえんだ。 「胡蝶、きみ、透けてきてないか」 「え?」  胡蝶が両手を窓にむけた。 「あら、ほんとう」 「わたし、透けてきてる。いやだ、消えるの?」     
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