終章      五  蝶が還るとき

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 胡蝶はひときわ強い光を放ち、初音の中に吸いこまれ、完全に形を失っていった。  初音は、つぶやいた。 「胡蝶はわたしのなかで生きる」  今も、胡蝶の心のはばたきを感じている。 「わたしたちは混じり合う。そしてひとりの人間になる。そうよね?」  胡蝶の答えは聞こえなかったが、初音には胡蝶の『そうかもね』とでもいうような、ひねくれた笑いが見えるような気がした。 「ありがとう、封印を解いてくれて」  初音は夕霧に話しかけた。  だが、彼は、初音を離さない。 「夕霧さん? あの……」  初音は我に返った。  拝殿で、衛門府の刀司に抱きしめられているのは、綾乃島神社の若宮として、かなり危うい。 「あの、そろそろ離してもらえますか?」 「……だね」 「え?」 「いやだね」  そう言って、夕霧はますます、初音を強く抱きしめた。 「夕霧さんっ!」 「おれが帰ると行ったのに、きみが行かせないといったんだ。責任を取ってもらおうじゃないか」 「せ、責任って」  初音は顔を真っ赤にした。 「夕霧さん!」  初音は、ぐるぐると酔ったようにまわる頭のすみで考えた。 (そうだった、この人は、とんでもないわがままの、強情っ張りで、なんでも思い通りにしないと気が済まなくて……) 「離してほしければ、ひとつおれの言うことをきけ」     
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