終章      五  蝶が還るとき

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「そんなこと言われたって」 「じゃあ、朝までこのままだ」 「夕霧さんたら!」  初音は一つ大きく息を吸って、覚悟を決めた。 「なんです? 聞くだけ聞きますから言ってみて」 「よし」  夕霧は初音の耳もとに口をよせた。    「きみが日の宮として一人前になり、後進が育ったなら、おれのもとに嫁ぐと約束しろ」 「!」  初音は足下から崩れそうになった。 「返事は?」  初音はこれ以上ないくらい鼓動が早くなり、しゃべれないほどに息が上がってきたが、なんとか声をだした。 「……はい……」 「約束したからな」  初音はうなずくのが精一杯だった。  夕霧が初音を見つめた。  彼は、してやったりといった、いたずらっぽい表情で、嬉しそうに笑った。  そして、言葉に反して、まだ初音を抱きしめたままだ。 「本当は、きみを手放す気はなかった。役目であろうとも、今もね」 「こまった人……」  初音は幸福に頬をそめた。   外は、月明かりのもと、桜が満開に咲いている。  雪のように降りしきる花びらの中で、もうひとりの少女の姿が見えた気がして、初音は目を閉じた。 (胡蝶の夢は、わたしの夢となって叶っていく――)                                 了     
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