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夕霧は強く言い放つ。
「戻り伝えよ。これ以上〈綾乃島(あやのしま)〉に手出しをすることは、許さないと」
早蕨はうすく笑った。
「綾乃島の日の宮は、三年前に死んだ。そして、新しい日の宮は、いまだ現れていない」
夕霧はわずかに目を細めた。
「何が言いたい」
「つまり貴様らなど、我ら六条院の敵ではない。日の宮の加護がないとすれば、いくら綾乃島の衛門府(えもんふ)の者でも、仙力などたかが知れているってことだ」
言い終わらないうちに 早蕨の大剣が疾風のように襲う。
重い一撃をうけとめ、夕霧は瞬時にはね返した。
早蕨が片頬をあげる。
「ほう。やるな」
「……」
「綾乃島の日の宮がこのまま不在となれば、千年の長きにわたり続いた貴様らの支配も、終わりというわけだ」
早蕨のあざ笑うような口調に、夕霧はいっそう刀の柄を強く握りしめた。
「六条院が、綾乃島に取って代われるはずがない」
「自惚れるなよ。綾乃島だけが唯一の存在というわけじゃないんだぜ」
「……」
「新しい日の宮など、そうかんたんに現れはしない。いつまでも支配側にいられると思うな」
早蕨は人の心に、刃物をねじ込むような笑みをうかべると、
「夕霧とやら、貴様にこいつが倒せるかな?」
早蕨が左の手のひらを昏い天空に向ける。
「出でよ!」
瞬時に大きな虎が出現した。
体毛は白と黒、体中に、いましめの鎖が巻かれている。
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