25人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
長い、長い抱擁。
今が、薄闇でよかった。
(まるで別れを惜しむ恋人たちのよう)
五の宮である初音が、こんな光景をだれかに見られたりでもしたら、とんでもないことになる。
彼の手がやっと離れた。
「あの、ありがとうございました」
初音が頭をさげると、
「べつに」
彼の口調は、最後までそっけない。
それなのに、どこかにあたたかみがあるような気がした。
(変、よね……。はじめて会った人なのに……)
けれども彼は、初音の名前を知っているようだった。
(あれは聞き間違い? そうよね、知り合いのはずはないもの)
初音の心は、波間にたゆたうように、ふしぎとゆれた。
最初のコメントを投稿しよう!