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「やだよ。ぼく、木の皮よりも、おせんべいのほうが好きなんだもん」
「変わった鹿だこと」
「で、食べていい?」
「いいわ」
諦めて腕をゆるめると、シロは元気よく飛び跳ねていく。鼻面で器用に菓子器のふたを開けると、嬉々としてせんべいをかじりはじめた。
短いしっぽが、うれしそうにゆれている。
しばらくすると、木の器をシロは鼻で押した。
「おやつはもう終わったの?」
「とっくにからっぽだい。最初から、そんなに入ってなかったよ」
そうだったかしら? と初音は首をかしげた。
「おなかばかりすかせて」
「育ち盛りだもん」
「怪異みたいね」
シロのしっぽがピンと逆だった。
「ぼく、怪異じゃないよぉ」
「そう?」
「あいつらはいつもおなかをすかせてるけど」
「どこがちがうの?」
からかって、鼻面を押すと、
「かわいさがぜんぜんちがうだろぉ?」
シロは歌うように言った。
初音のひざの上に頭をのせて、ふわふわと耳を動かし、だらりと足をのばして横たわる。
(こうなると、シロは庭の石灯籠のように動かないんだから)
初音はシロをなでて、ふかふかの手触りを楽しみたかったが、そろそろ、支度にかからなくてはならない。
「さあ、わたしは行くからね」
「やだよ。もうちょっとここにいて。初音」
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