第一章 蝶の痕      五  ともだち  

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「やだよ。ぼく、木の皮よりも、おせんべいのほうが好きなんだもん」 「変わった鹿だこと」 「で、食べていい?」 「いいわ」  諦めて腕をゆるめると、シロは元気よく飛び跳ねていく。鼻面で器用に菓子器のふたを開けると、嬉々としてせんべいをかじりはじめた。  短いしっぽが、うれしそうにゆれている。  しばらくすると、木の器をシロは鼻で押した。 「おやつはもう終わったの?」 「とっくにからっぽだい。最初から、そんなに入ってなかったよ」  そうだったかしら? と初音は首をかしげた。 「おなかばかりすかせて」 「育ち盛りだもん」 「怪異みたいね」  シロのしっぽがピンと逆だった。 「ぼく、怪異じゃないよぉ」 「そう?」 「あいつらはいつもおなかをすかせてるけど」 「どこがちがうの?」  からかって、鼻面を押すと、 「かわいさがぜんぜんちがうだろぉ?」  シロは歌うように言った。  初音のひざの上に頭をのせて、ふわふわと耳を動かし、だらりと足をのばして横たわる。 (こうなると、シロは庭の石灯籠のように動かないんだから)  初音はシロをなでて、ふかふかの手触りを楽しみたかったが、そろそろ、支度にかからなくてはならない。 「さあ、わたしは行くからね」 「やだよ。もうちょっとここにいて。初音」     
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