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「操(あやつ)り怪異(かいい)か!」
(なんという大きさだ)
操り怪異の大きさは仙力に比例する。早蕨の仙力は、それだけ強いということだ。
夕霧は刀をかまえ直した。
大虎の咆吼ひとつで、つむじ風が巻き起こった。それだけで周囲の木々が切り裂かれ、なぎ倒されていく。風圧で全身がビリビリと振動する。
「夕霧、おまえの腕でも、こいつには手こずるだろうよ」
大虎の前足が夕霧におそいかかる。まるで嵐だ。
夕霧は間一髪よけた。
「うっ!」
しかし、左腕が三カ所ほども切れていた。
鋭い切り口から、みるみる間に血が吹き出し、白い制服を、赤く染めていく。
夕霧は背筋に冷や汗がうかぶのを感じた。
(この操り怪異にまともに一撃をくらったら、ひとたまりもない!)
早蕨が挑発するように言う。
「以前、この大虎に刃向かったものは、ばらばらになって死んだぜ。その前は、骨も残らなかったかな。こいつにかみ砕かれてな。ああ、哀れなことだ、弱いってのはな」
「……」
「日の宮不在の綾乃島の者など、相手にもならん」
「……」
「大虎に食われて、死んどきな。そうしたら、あわれな綾乃島の行く末を見なくてすむだろうよ」
夕霧はふっと息を吐くと、刀を上段にかまえた。
「よく、まわる口だ」
「勝利が目前ってのは、気持ちのいいもんだぜ」
「そうか。では、よく見ておけ」
夕霧は刀を縦に構えた。
「日の封陣!」
夕霧が光の文字を書くように刀をふるう。
刀からあふれだした光が、操り怪異をとりまく。
「なにっ!」
大虎が、光の檻にとじこめられる。
「まさか、おまえ――、その力……!」
夕霧は答えずに、呪をとなえる。
「天(かみつかた)をもって神と為し、地(しもつかた)をもって仁(ひと)と為す。いづくんぞ天真の霊知を明かさんや。滅せよ!」
するどい一閃――まさに雷撃だ。
夕霧の刀の切っ先は大虎の眉間に突き刺さる。
一瞬にして大虎は灰になった。
「俺の操り怪異が!」
早蕨が呆然としてさけんだが、大虎は跡形もなくなっていた。
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