第一章 蝶の痕      一  日の宮

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「操(あやつ)り怪異(かいい)か!」 (なんという大きさだ)    操り怪異の大きさは仙力に比例する。早蕨の仙力は、それだけ強いということだ。    夕霧は刀をかまえ直した。    大虎の咆吼ひとつで、つむじ風が巻き起こった。それだけで周囲の木々が切り裂かれ、なぎ倒されていく。風圧で全身がビリビリと振動する。 「夕霧、おまえの腕でも、こいつには手こずるだろうよ」    大虎の前足が夕霧におそいかかる。まるで嵐だ。  夕霧は間一髪よけた。   「うっ!」 しかし、左腕が三カ所ほども切れていた。 鋭い切り口から、みるみる間に血が吹き出し、白い制服を、赤く染めていく。  夕霧は背筋に冷や汗がうかぶのを感じた。   (この操り怪異にまともに一撃をくらったら、ひとたまりもない!)  早蕨が挑発するように言う。 「以前、この大虎に刃向かったものは、ばらばらになって死んだぜ。その前は、骨も残らなかったかな。こいつにかみ砕かれてな。ああ、哀れなことだ、弱いってのはな」 「……」 「日の宮不在の綾乃島の者など、相手にもならん」 「……」 「大虎に食われて、死んどきな。そうしたら、あわれな綾乃島の行く末を見なくてすむだろうよ」  夕霧はふっと息を吐くと、刀を上段にかまえた。 「よく、まわる口だ」 「勝利が目前ってのは、気持ちのいいもんだぜ」 「そうか。では、よく見ておけ」 夕霧は刀を縦に構えた。 「日の封陣!」  夕霧が光の文字を書くように刀をふるう。  刀からあふれだした光が、操り怪異をとりまく。 「なにっ!」    大虎が、光の檻にとじこめられる。   「まさか、おまえ――、その力……!」    夕霧は答えずに、呪をとなえる。 「天(かみつかた)をもって神と為し、地(しもつかた)をもって仁(ひと)と為す。いづくんぞ天真の霊知を明かさんや。滅せよ!」    するどい一閃――まさに雷撃だ。    夕霧の刀の切っ先は大虎の眉間に突き刺さる。  一瞬にして大虎は灰になった。 「俺の操り怪異が!」  早蕨が呆然としてさけんだが、大虎は跡形もなくなっていた。      
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