アンドル

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 コツコツコツ。    かすかな音が耳に入る。靴の音だ。男は音のした方向を横目で見ると、入口付近に人影を捉えた。若い女性のようだ。ここを通り抜けるつもりらしい。コツコツと靴を鳴らしながら、こちらに近づいてくる。    男はそれまで弾いていたカバー曲を止め、別の曲を弾き始めた。    それは、以前作ったオリジナル曲。渾身の自信作だ。  相手の心へ届くように力強くかつ丁寧に奏でる。女性が数メートル手前まで迫って来た。自然と歌う声に熱が帯びる。そしてついに、彼女の歩みは男の前に到達し――。
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