19人が本棚に入れています
本棚に追加
私が生まれ育った家は、路地にあった。その路地には住宅がひしめき合い、隣の家とはベランダを跨げば渡れるほど密着していた。向かい合う家とも、挟み合うコンクリートの長さは2メートルほど。軽自動車が通れるくらいしか離れていなかった。
この物理的な接近は、どうやら住民たちの他者への接し方にまで影響を及ぼしていた。いわゆる「人付き合いが盛ん」という人情味ある話の次元にとどまらず、パーソナルスペースが狭く、パブリックスペースがやけに広いのだ。人の心に土足で踏み込んでくる、とまでは言わないが、ひとたび家から外に出たらやたらと声をかけられたりするし、何かと行動を詮索されたりする。
私は、それが嫌で嫌で仕方なかった。だから、近所の人とは意識的に距離を置くようにした。おそらく、子どもっぽくないように大人たちの目には映っていたに違いない。「おとなしいね」と、なぜだかやや皮肉っぽく言われることが多かった。さも、おとなしいことが悪いことのように。それは、あなたたちが抱く、そうあってほしいと願う「地域の子ども像」にそぐわないだけだろう。
最初のコメントを投稿しよう!